「うちのCFOは、決算と監査対応で一年が終わる」——そんな会社が、いまの日本にはまだ多い。だが資本市場の要求は確実に変わった。決算を締め、内部統制を回す「守り」だけでは、もうCFOの仕事は半分しか終わっていない。残りの半分——どこにお金を置き、どの事業を伸ばし、どの事業を畳むか。この資本配分(限られたお金を、どの事業・投資に振り向けるかの判断)こそ、いま財務トップに突きつけられている本丸だ。本稿はCFOzine編集部が、CFOの役割が「守り」から「攻め」へ広がる流れを、日本企業の現実に即して整理する総論である。

この記事のポイント
CFOの仕事は、決算・統制という「守り」から、資本配分・事業ポートフォリオという「攻め」へ重心が移っている。引き金は2023年の東証要請。ただし攻めは守りの放棄ではなく、守りを効率化して時間を生み、その時間で攻める——この地続きの役割が、いま財務トップに求められている。
CFOの重心は守りから攻めへ移りつつある
BEFORE
守りのCFO
決算・監査・内部統制を回し、減点を防ぐ。できて当たり前で加点されない
AFTER
攻めのCFO
資本配分・事業ポートフォリオ・成長投資を設計し、加点を取りにいく
守りは減点を防ぐ仕事、攻めは加点を取りにいく仕事。市場は攻めの設計図を見にきている。

「守り」だけでは評価されなくなった——東証要請という分水嶺

潮目を決定的に変えたのは、2023年3月に東京証券取引所がプライム・スタンダードの全上場会社へ出した「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」の要請だ。平たく言えば「PBR(株価純資産倍率=株価が会社の純資産の何倍で評価されているか)が1倍を割っている会社は、稼ぐ力か成長期待のどちらかが市場に評価されていない。改善の方針と目標を、投資家にわかる形で出しなさい」という、踏み込んだ要請だった。

その後の浸透は速い。とりわけPBRが1倍を割る企業ほど、対応を迫られている。背景には、2014年の「伊藤レポート」(経済産業省のプロジェクト報告書)がROE(自己資本利益率=株主資本でどれだけ稼いだか)8%という目線を投げ込み、2015年のコーポレートガバナンス・コード(上場企業の経営の作法を定めた指針)へとつながった、ここ約10年の流れがある。

約10年の流れが、攻めのCFOを求める現在地をつくった
STEP 1
伊藤レポート
2014年・ROE8%という目線を投げ込む
STEP 2
ガバナンス・コード
2015年・上場企業の経営の作法を定める
STEP 3
東証の要請
2023年3月・資本コスト/株価を意識した経営を求める
土台一貫する問いは「資本コストを上回る収益を、どの事業で、いつ、いくら稼ぐのか」。これはCFOが説明しなければ誰も説明できない。約10年かけて市場が突きつけてきた本丸だ。
守りはできて当たり前、市場はその先の攻めの設計図を見にきている。

東証の集計では、要請への対応を開示したプライム市場の企業は2024年7月末で約8割に達した。

東証要請への対応開示(2024年7月末時点)
約8割
プライム市場
対応を開示した企業の割合
約4割
スタンダード市場

ここで効いてくるのが、財務トップの仕事の性質だ。決算の正確さや統制の堅牢さは、できていて当たり前——市場は加点してくれない。一方で「資本コストを上回る収益を、どの事業で、いつ、いくら稼ぐのか」は、CFOが説明しなければ誰も説明できない。守りは減点を防ぐ仕事、攻めは加点を取りにいく仕事。いまの資本市場は、守りができている前提で、攻めの設計図を見にきている。

「攻め」のCFOが実際にやっていること

攻めへの転換と聞くと抽象的だが、現場でやることは具体的だ。CFOzine編集部の見立てでは、攻めのCFOの仕事は大きく3つに分解できる。

攻めのCFOの仕事は、この3つの掛け算で成り立つ
資本配分を握る
ポートフォリオに切り込む
市場の言葉に翻訳する
=
攻めのCFO
どれか一つでも欠けると、攻めは成立しない。三つを行き来できる数少ないポジションがCFOだ。
  • 資本配分の決定権を握る:手元の現金、稼いだ利益、借入枠——この原資を、成長投資・M&A・設備・株主還元のどこにいくら振るか。「各事業から上がってきた予算を足し合わせる」のではなく、会社全体の視点で配分を組み替える。ここでCFOが受け身だと、声の大きい事業部門に資源が流れ、全体最適は崩れる。
  • 事業ポートフォリオに切り込む:ROIC(投下資本利益率=その事業に投じたお金がどれだけ利益を生むか)を事業ごとに測り、資本コストを下回り続ける事業には「立て直すか、売るか、畳むか」を迫る。撤退の議論は、CFOが口火を切らないと社内では先送りされやすい。嫌われ役だが、攻めの核心だ。
  • 戦略を市場の言葉に翻訳する:経営トップの構想を、投資家が納得するROIC・ROE・キャッシュ創出の道筋へ落とし込み、同時に現場の日々の活動とつなぐ。CFOは「経営の言葉」「現場の言葉」「市場の言葉」の三つを行き来できる、数少ないポジションにいる。

PwCの「CFO意識調査2025年版」でも、業績予測や財務戦略づくりといった「攻め」の役割が増えたと感じるCFOが多い一方、ガバナンス強化や不正防止という「守り」も依然として重い、という両にらみの実態が浮かぶ。攻めは守りを捨てることではない。守りを土台に、その上で攻める。この二者択一にできない点こそ、日本のCFOの難しさだ。

日本企業ならではの壁——時間・人材・距離感

ここで地に足をつけたい。海外の「Chief Value Officer(最高価値責任者)」論をそのまま輸入しても、日本の多くの経理財務部門では絵に描いた餅になる。理由は3つある。

日本企業が攻めへ進むには、三つの壁を越える必要がある
壁①時間がない
深刻度
着手しやすさ
守りの定常業務で工数が埋まる。まず自動化で守りの時間を削る
壁②人材の型が合わない
深刻度
着手しやすさ
会計の正確さで採ってきた人材。攻めには事業を読む力が要る
壁③事業との距離
深刻度
着手しやすさ
管理部門の奥では撤退も投資も判断できない。現場に踏み込む
どれも一朝一夕には消えない。だからこそ、まず守りの効率化で時間を生むことが起点になる。

第一に、時間がない。月次・四半期・本決算、税務、監査対応、開示——守りの定常業務だけで経理財務の工数は埋まりがちだ。攻めの構想に充てる時間は、業務を減らさない限り生まれない。だからこそ、まず手をつけるべきは資本配分の高尚な議論ではなく、決算・支払・請求まわりの自動化や標準化で「守りの時間を削る」泥臭い作業だったりする。RPA(定型作業を自動化する仕組み)やシステム刷新で、年間数百時間規模の工数を削減したと報告される例もある。攻めの前提は、守りの効率化だ。

第二に、人材の型が合っていない。これまで経理財務人材は、簿記・税務・会計基準の正確さで評価されてきた。だが攻めに必要なのは、事業の中身を読む力、資本市場の感覚、プロジェクトを前に進める力、そして変化を起こす胆力だ。会計の専門家を採るだけでは届かない。CFO組織そのものを、攻め向きに育て替える必要がある。

第三に、事業との距離。攻めのCFOは、管理部門の奥に座っていてはできない。どの事業が、なぜ稼げないのか。現場の構造まで踏み込んで初めて、撤退や追加投資の判断ができる。経理財務が「数字を締める部署」から「事業を一緒に動かす部署」へ、社内での立ち位置を変えられるか。ここが分かれ目になる。

いまの財務トップに、結局なにが求められているのか

整理しよう。CFOの仕事は、決算と統制という「守り」から、資本配分・事業ポートフォリオ・成長投資という「攻め」へ、その重心を移しつつある。引き金は東証の資本コスト要請であり、その源流には伊藤レポート以来の約10年がある。守りはできて当たり前、攻めの設計図こそ市場が見にきている——これが現在地だ。

ただし、攻めは守りの放棄ではない。むしろ守りを効率化して時間を生み、その時間で攻めの構想を組む。日本企業にとって現実的な順序は、こうなる。

守りの効率化を土台に、攻めの順序を一本でつなぐ
STEP 1
守りの工数を削る
決算・支払・開示の定型業務を自動化・標準化する
STEP 2
攻めを中心に据える
事業ごとのROIC可視化と資本配分の議論を経営の中心へ
STEP 3
翻訳して伝える
市場が納得する形と現場が動ける形の両方に変換する
土台土台は守りで積んだ信頼。守りができている前提があるからこそ、攻めの意思決定をリードできる。順序を飛ばして攻めから入ると、足元が崩れる。
攻めのCFOとは、限られたお金をどこに置けば一番価値を生むかを誰よりも具体的に語れる人だ。

攻めのCFOとは、派手な投資判断を下す人のことではない。会社の限られたお金を、どこに置けば一番価値を生むかを、誰よりも具体的に語れる人のことだ。守りで信頼を積み、その信頼を元手に攻めの意思決定をリードする。いま財務トップに求められているのは、この地続きの役割だ。

まとめ
CFOの重心は「守り」から「攻め」へ移っている。引き金は2023年の東証要請、源流は伊藤レポート以来の約10年。攻めの中身は資本配分・事業ポートフォリオ・市場への翻訳の3つ。日本企業の壁は時間・人材・距離感で、突破口はまず守りの効率化で時間を生むこと。攻めのCFOとは、限られたお金をどこに置けば一番価値を生むかを、誰よりも具体的に語れる人のことだ。

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